ゴリラの社会科

授業で扱ったことをあげていきます。

子どもが参加する板書

1.異なる意見にアンダーライン

ちょっとした工夫が生徒の主体的に学習に取り組む態度を育むことができる。

 

粕谷昌良は次のような板書術を提案する。

 

自分とは異なる立場の意見でも納得できるものには子どもに黒板の前まで出てきてもらい,アンダーラインを引いてもらう方法を示した(粕谷 2022: 118)

 

教師が板書を書くという固定観念から離れた板書術である。子どもの価値観を板書にも反映させ,一層授業への主体的な参加をねらっている。

 

この板書術を用いて,裁判員裁判の模擬裁判を行った。

 

2.正当防衛か傷害致死罪か。

202210 3-2国の政治の仕組み#9「模擬裁判」p.102-105

 

正当防衛か傷害致死罪(過剰防衛)か

 

次の状況から、女性Bが正当防衛か傷害致死罪かを判断しなさい。

 

時間:   終電間際の夜11時ごろ。

場所:   駅ホーム。

登場人物: 酒に酔った男性A(体育教師)

      女性B(ダンサー)

 

<状況>

女性Bは駅のホームで酔っ払った男性Aから執拗に絡まれた。拒否反応を示すと男性Aは大きな声を出してコートの襟のあたりをつかんだ。女性Bはこれを避けるため、そして男性に対し腹が立ったこともあり、相手の体を突いた。すると男性Aはホームから線路上に転落し、進入して来た電車の車体とホームの間に体をはさまれ死亡した。

 

<検察と被告の主張>

検察は過剰防衛による傷害致死罪を要求、女性は正当防衛による無罪を主張した。

 

<裁判の争点>

A 正当防衛を認め、女性を無罪とする

B 正当防衛を退け、過剰防衛として傷害致死罪を適用するか

 

<正当防衛の成立要件>

  1. 不正の侵害であるかどうか                      生命、身体、財産への加害行為の有無
  2. 急迫性があるかどうか                            将来的に起こりうる危険は正当防衛にならない
  3. 防衛行為の必要性があるかどうか           逃げることができた場合正当防衛にならない。
  4. 防衛行為の相当性があるかどうか           防衛のための必要最小限度のものか。
  5. 防衛の意思があったかどうか                  正当防衛に乗じて攻撃の意志はなかったか。

以上の5つすべてを満たすこと。

 

あなたはどのような判決を下しますか?

判決

理由

 

 

 

この模擬裁判は,実際に起きた裁判を扱った。昭和61年に判決が決定したいわゆる「西船橋ホーム転落死事件」である。

 

(1)ワークシートを配り,事件の概要を説明する。

(2)正当防衛化か傷害致死かで争われた裁判だが,ファーストインプレッションで,どっちだと思うか聞く。

・生徒の大半が正当防衛で無罪であると主張したが,1名だけ傷害致死で有罪であると予想した。

(3)正当防衛の要件を提示し,じっくり考えてもらう。

(4)黒板を2分し,一人ひとり,正当防衛の立場,傷害致死の立場にネームカードを張る。

・4:11で圧倒的に傷害致死となった。

(5)この時点で,実際の裁判員裁判であれば有罪となること,3年以上の懲役が確定することを確認する。

(6)一人ひとり,判決の理由を述べてもらい,教師が板書する。

(7)反対の立場であっても納得するものに下線を引いてもらった。

以下正当防衛として無罪を主張した生徒の意見である。

・女性と男性の力の差から,逃げることはできなかったと思う。

・襟をつかみ自由を奪っていることから身体への侵害といえる。

・酔っぱらった人だから何されるか分からず,緊迫性がある。

・殺そうという意思はなく,男から離れたかった一心だと思う。

 

3.生徒の反応

次に傷害致死罪を主張した生徒の意見である。

・酔っぱらった男性であれば,女性の力でも逃げ切れると思う。

・男性に腹が立ったということは攻撃の意思があったとしてみなされると思う。

・突く力が強ければ,酔っぱらった人間がホームに落ちるかもしれないということは予見できたと思う。

・男性は襟をつかんだだけで,身体の侵害には当たらない。

 

こうした意見がある中,こんな疑問も出てきた。

・身体への侵害行為の境目がよくわからないので,侵害といえるかどうかがはっきりしない。

・何をもって意思と判断するのか。

・死人に口なしで可哀そう。

 

板書しながら,面白い意見がたくさん出てくるなーと思う授業だった。下線を引きながら,ぶつぶつ言っている姿を見ると小さなガッツポーズをしたくなる。少しのテクニックだったが,これは使える!と思いました。

参考文献

粕谷昌良,2022,「子どもの学びを深める板書図鑑 その②」『社会科教育』2022年11月号,118-119.

千葉地方裁判所判決/昭和61年(わ)第68号

http://www.ichikiyo.com/hanketsu19870917.pdf

www.t-nakamura-law.com