ゴリラの社会科

授業で扱ったことをあげていきます。

「終わった人」が終わった人を書くのかと思いきや

発想の転換というものがある。

例えば人間とは何かを考えるときに,人間を観察するのではなく,人間ではないチンパンジーを観察することで,逆に「人間らしさ」が浮かび上がってくることがあるように。

 

内館牧子の『終わった人』は,退職したおじさんの余生を描いた物語である。

 

定年退職した主人公が,今までの自分が会社に裏打ちされた「○○会社専務」という肩書の存在であり,個人としての自分には何もないことに気づく場面がある。こうした経験は退職時にかかわらず,進路選択や就活,人生のひょっとしたときに訪れるものだが,定年退職というイベントがその悲壮感を加速させている。

 

結果的にではあるが,仕事をしなくてよいとされた人の人生をみることで,仕事をさせてもらっている今の自分の仕事のあり方を見つめ直すものになっていた。

 

相撲関係ででしゃばってくるしわくちゃのばあさんというイメージが強く,それこそ今を時めくわけではない「終わった人」としていた内館牧子の作品だったが,読んでみてとても面白く,食わず嫌いってよくないなとも思った作品だった。正直,今年一番面白かった作品はなにかと聞かれたらこれをあげると思う。

 

来年定年退職を迎える母に,母の日のプレゼントとして送ってあげました。