ゴリラの社会科

授業で扱ったことをあげていきます。

君たちはブッシュミートを知っているか――野生動物はたんぱく源か保護対象か

ナショナルジオグラフィック2023年6月号

1.新たなたんぱく源

SNSを中心に食用コオロギが話題になっていたのを覚えているだろうか。世界的な食糧危機を救う代替品として国も期待を寄せている。

 

農林水産省が外部に委託してまとめた調査によると,日本の昆虫食市場は,2020年の時点で約4億円だが,世界では約100億円となっており,2050年には約0.3兆円規模に拡大しているとの予測も立てられている*1

 

昆虫食は,安定したたんぱく源となってきた肉や大豆に代わる新たなたんぱく源として注目され,長年研究されてきた。鶏・豚・牛肉や大豆の列に,昆虫が並ぶ日もそう遠くないのかもしれない。

 

しかし,世界のどこかでは,食卓にコウモリやワニ,レイヨウといった野生動物の肉であるいわゆる「ブッシュミート」と言われるものを食べる人々がいる。

数百万人の食を支える貴重なたんぱく源となっているブッシュミートにナショナルジオグラフィックがせまる。

 

 

2.ブッシュミートをめぐる2つの危険性

アフリカ中部に位置するコンゴ共和国の首都・ブラザビルには,毎年コンゴ盆地で捕獲された数千万匹もの野生動物が,「ブッシュミート」として流通している。年間500万トンを超えるブッシュミートが,大都市に運ばれており,生存に必要な食糧としてではなく,ぜいたく品として消費されているという。

 

ブッシュミートをめぐっては,生物多様性の低下を不安視するものと,野生動物を介して蔓延する様々な感染症を防ぐという2つの視点から,段階的な脱却や規制対象とすべきであるという議論が盛んである。

 

第一が野生動物の絶滅と関わる議論である。

かつてブッシュミートは原住民の食糧として捕獲される程度に過ぎなかった。しかし現在では,都市部において,富裕層が社会的地位を獲得したり,観光客のお土産やぜいたく品としての消費が急激に増加している。そうした需要にこたえるため,ブッシュミートは高値で取引され,野生動物の生存が脅かされている。

 

そして,第二に野生動物が媒介する感染症を防ごうとする議論である。

コウモリは,鉄壁の免疫系をもち,さまざまなウイルスに感染しても発症しない。しかし,人間との接触を通じて,様々な病気を感染させやすい。エボラ出血熱などの感染の爆発的な流行は,コウモリが媒介している可能性が指摘されている。

 

このコウモリもまたブッシュミートとして幅広く流通している。とりわけ,オオコウモリは世界中の森林の近くに住む人々が日常的に食べている食材だ。オオコウモリは主食が果物であることから,健康的なイメージが加わって,フルーツコウモリとして親しまれているという。

 

本特集で,興味深い証言を知ることができた。

 

ブッシュミートを買うなというが,それなら何を買えばいいのか?輸入した肉なんか食べたら,病気になるかもしれない。(p.115)

 

私たち日本人は,安価な精肉をスーパーで安定して手に入れることができる。かつて外国産の牛肉が問題視されたこともあったが,安い輸入肉を買うことは当たり前である。しかし,そうした流通が整っていない地域では,輸入肉のイメージはよくないのだろう。日本は先人たちの努力によって,国内の畜産業が発達し,また輸入肉も手に入れることができる。

こうした発展の道のりは,それはそれで様々な問題を引き起こしているのだが,そうではない国々もまた「ブッシュミート」をめぐる問題に直面していることを知ることができた。

 

また伝統的な狩猟採集社会と思いこんでいた地域も,「都市化」による様々な問題が引き起こされていることに,このナショジオは気づかせてくれることを改めて認識した。

 

関連した過去記事

gogo-gorila.hatenablog.com

 

参考文献

食用コオロギが食料危機を救う? 拡大する昆虫食市場、日本では | 毎日新聞

シリーズ・疫病と人間:「互助」が必然になる 疫病は世界史の転換点に ジャレド・ダイアモンド博士 | 毎日新聞

*1:毎日新聞』2023年3月5日付