ゴリラの社会科

授業で扱ったことをあげていきます。

公民の授業準備――「公民」概念の勉強

公民の授業を始める前の準備を梅津・井上編(2023)に学び進めていく。

 

公民の授業を始める前に,改めて検討しなければならないのが目標の設定である。

生徒にどのような力を身に付けてほしいのか目標設定をしなければ,授業を作ることはできないし,評価もできないからだ。教師も生徒も目標に向かって共に歩めるための準備が必要となる。

 

公民的分野の目標は次の通りだ。

現代社会の見方・考え方を働かせ,課題を追究したり解決したりする活動を通して,広い視野に立ち,グローバル化する国際社会に主体的に生きる平和で民主的な国家及び社会の形成者に必要な公民としての資質・能力の基礎を次の通り育成することを目指す。(平成29年公示『中学校学習指導要領』)

端的に言えば,「公民としての資質・能力の基礎」を育てることが最終目標である。そしてこの「公民としての資質・能力の基礎」とは,小中学校社会科の目標に一貫した表現であり,社会科の究極目標である。それでは,そもそも「公民」とはどのような概念なのだろうか。教師として,この概念を押さえていれば,生徒を評価する視点や方法をイメージすることにつながる。

 

「公民」概念は,桑原敏典が「社会の中で権利を行使し,義務や責任を果たす存在であり,市民社会の一員である市民と,国家の成員としての国民という二つの意味をあわせ持つ概念」と定義している(桑原 2020: 8)。

 

このように「公民」とは,一方では市民的な視点をもつ開かれた思考をする存在であり,一方では国民としての視点をもつ社会的文脈に立つ思考をする存在としてイメージすることができる。したがって,授業でも市民的思考を促す問いと国民的思考を促す問いを組み合わせていく必要があるのだ。

 

参考文献

桑原敏典,2020,「中学校社会科・高等学校公民科教育の意義と課題 なぜ中学校の社会科,高等学校に公民科が必要なのか」社会認識教育学会編『中学校社会科教育・高等学校公民科教育』

梅津正美,井上昌善編著,2023,『板書&展開例でよくわかる 主体的・対話的で深い学びでつくる365日の全授業 中学校社会 公民的分野』明治図書

 

 

お試し企画推薦も ドキュメント72時間年末スペシャル TOP10まとめ

番組HPより

ドキュメント72時間を知っていますか?こちらドキュメント72時間・北海道支部です。

 

あるスポットを訪れ,そこで72時間(3日間)カメラを回すドキュメント番組である。年末には1年間の放送を振り返り,ベスト10を決めている。今年の2023年のランキングを紹介しよう。最後にお試し推薦企画もあるよ。

 

第10位 島根・黄泉比良坂(よもつひらさか) あの世との境界で(10月6日)

緑豊かな自然の中に、大きな岩。一見、特別な場所に見えないが、ぽつりぽつりと人が訪れる。今回の舞台は、島根県松江市の山あいにある“黄泉比良坂(よもつひらさか)”。「古事記」にも登場し、この世とあの世の境界と、古くから言い伝えられてきた。亡くなった親友に会いに来たという人。神話の世界に興味があると遠方から訪れた人。亡き父宛てに手紙をつづる人もいる。この不思議な場所に、みんな何を求めてやってくるのか。(番組HPより)

 

第9位 フジロック 待ち望んだ夏の日に(2023年9月8日)

フジロックフェスティバル。200組以上のミュージシャンに、のべ11万人を超える観客。日本最大規模の音楽イベントが、この夏4年ぶりに通常開催された。舞台の新潟県・苗場スキー場には全国各地から大勢の人が。お目当てのミュージシャンがいるという家族連れ。豊かな自然に囲まれ、ゆったりと時間を過ごす人。ここに来ると優しくなれるという人も。何がそこまで人々を熱狂させるのか。3日間、その胸のうちに耳を傾ける。(番組HPより)

 

第8位 岡山 24時間のドライブイン(2023年4月14日)

ホルモンうどんにスタミナ定食、カツ丼にラーメン、焼き肉まで。舞台は岡山・備前市にある24時間営業のドライブイン。大阪と北九州を結ぶ国道2号線沿いにあり、行き交うドライバーたちが立ち寄る。広島に荷物を運んだ帰りというトラック運転手。夜勤の仕事終わりに来た会社の同僚2人組。最近は女性のトラックドライバーも多く、運送業を取り巻く時代の変化も浮かびあがる。3日間カメラを据え、訪れる人の声に耳を傾ける。(公式HPより)

 

第7位 さらば,呑んべ横丁(2023年7月28日)

居酒屋やスナック、小料理店やバー。葛飾区立石の路地裏にある“呑んべ横丁”。この8月、70年の歴史に幕を下ろす。街の再開発の決定後、お店は徐々に減っていき、今は10軒ほどが営業している。カラオケを熱唱する30年来の常連の男性。実家みたいと週5で来るという若者。ここで40年、まだ移転先が決まっていない居酒屋のママもいる。みんなどんな思いで最後の日々を過ごしているのか。3日間、カメラを据える。(番組HPより)

 

第6位 福岡・高速バスターミナル 年の瀬を走る(2023年2月17日)

年の瀬を走るバス。舞台は福岡の繁華街にある高速バスターミナル。1日1000便以上のバスが出入りする。電車より安く行けると、父親に会うために長崎に向かう女性。早朝、宮崎に帰省する彼氏を見送りに来た彼女。福岡に出て一旗あげたいと家探しに来た2人組。夜行バスで15時間かけて東京に向かう人も。さまざまな事情を抱えてバスに乗り込む人たち。年末年始の3日間、ターミナルを行き交う人生を見つめる。(番組HPより)

 

第5位 大病院の屋上庭園で(2023年6月30日)

見上げれば大空。周囲は四季折々の花や緑豊かな木々。今回の舞台は、東京・御茶ノ水駅近くにある病院の屋上庭園。病床数は800で、患者やその家族がこの庭園を訪れる。入院中の子どもを連れてくる家族。外の空気を吸いたいという松葉づえの男性。肺がんの手術を終えた70代の男性は、日の光を浴びたいとやってくる。命と向き合う病院の片隅、みんなここで、どんな時間を過ごしているのか。訪れる人たちの声に耳を傾ける。(番組HPより)

 

第4位 北海道・礼文島 最果てのユースホステルで(2023年9月15日)

ど派手なお出迎えに、全員での歌や踊り。舞台は北海道・礼文島にある、少し変わったユースホステル。開いている夏場の4か月間、全国から大勢の人がやってくる。毎年、何回も来るという常連や、大自然を歩くトレッキングが楽しみという人。人生の岐路に、一度立ち止まりたくてここを訪れたという人もいる。全国的には、その数を減らしているユースホステル。この宿の何が人々の心をひきつけるのか。3日間、カメラを据える。(番組HPより)

 

第3位 大阪 昭和から続くアパートで(2023年1月13日)

大阪港近くに並ぶ3棟の古びたアパート。造船業が盛んだった昭和40年に建てられ、今もおよそ70世帯が暮らしている。アパートには住人が集まるたまり場があり、朝からお酒を飲む人も。夫を亡くし、数年前に越してきた年配の女性。息子家族を困らせないようにと、ここでの1人暮らしを選ぶ男性。ここが住みよいと30年以上暮らし続ける夫婦もいる。移り変わる時代の中、変わらずに続くアパートの日々を3日間、見つめる。(番組HP)より

 

第2位 全国うどん自販機の旅 群馬編(2023年8月1日)

1杯300円ほど。古びた機械から出てくる、温かなうどん。全国でその数を減らしている“うどん自販機”を巡る旅。今回は8か所も残る群馬へ。72時間の間にうどん自販機を回っていく。設置されたドライブインに30年通っている常連の男性。習い事帰りに来たという親子。24時間営業の店には、深夜も車好きの若者やカップルの姿がある。昭和に生まれたうどん自販機を巡れば、どんなドラマに出会えるだろうか。45分拡大版。(番組HPより)

 

第1位 冬の北海道 村のコンビニで(2023年3月10日)

吹雪ふきすさぶ小さな村。北海道の北西部に位置する人口1000人ほどの初山別村。舞台は村に1軒だけあるコンビニ。生鮮食品が多いくらいで、品ぞろえは普通。雪が降り続く季節、品物をソリに乗せて帰る女性や、1日3回訪れるというタコ漁師。村の誰もが知り合いという美容師や、この村で働きたいと移住した若者など、いろいろな人がやってくる。雪深い真冬の3日間、村のコンビニにカメラを据え、地域の暮らしを見つめる。(番組HPより)

 

お試し企画推薦 姉妹スナック「えつ子」と「葉子」・旭川すずらん小路

お試し企画に推薦できませんでしたので,この場をお借りして。

私がおすすめするのは,「すずらん小路」。北海道旭川市には通称「3・6(さんろく)」と言われる北海道屈指の飲み屋街がある。住所となっている3条6丁目を中心とするため,その番地から「さんろく」と名付けられている。

この「さんろく」のどまんなかにあるのが「すずらん小路」だ。昭和46(1971)年に名付けられた。そのなかに,姉妹でやっているスナックがある。そのなも「スナックえつ子」と「すなっく葉子」だ。下は20歳から上は90歳まで幅広い年齢層に人気だ。

昼はカラオケ喫茶,夜はスナック。北の繁華街で繰り広げられる72時間のドキュメントを楽しみにしています。

 

 

 

○○分前着席という奇習はやめませんか?

 

1.○○分前着席という奇習

新年度の校内ルール見直しが始まっている。

私は授業の準備と予習をする2分前着席ルールの廃止を訴えたい。

 

○○分前着席とは,授業開始の○○分前に着席し,次の授業の準備と予習することで,時間を守る習慣を身に付けること,授業と休み時間の気持ちの切り替えをすることを目的として設定される校内ルールである。おそらくほとんどの学校で設置されているルールであると思うが,以下の3つの理由からこの奇習を廃止したい。

それは第1に指導する立場である教師が,このルールを含めた「授業時間を守ること」ができていないこと。なんだかんだで先生たちからこのルールの指導をやめていること。そして10分休みにしっかり休ませたいという3点だ。

2.授業時間を守ることができない先生たち

そもそも授業時間を守れていないのは往々にして先生の方である。授業終りのチャイムが鳴ってもまだ話し続ける教員がいるのは当たり前で,なんなら5分くらいオーバーする先生も当たり前にいるのではないだろうか。次移動教室なんですけど。。。と生徒から不平不満は出ないのだろうか。

 

授業開始にもプリントの印刷ができていなかったり,テレビやパソコンが立ち上がっていなかったりと,チャイムが鳴り終わってからすぐ始められる先生がどれほどいるのだろうか。

 

チャイムとともに始まり,チャイムとともに終わろう。まずはルールを指導する立場から見直してほしい。

 

3.継続しない指導は効果がない。

2分前着席の指導に熱が入るのは1年生の1~2学期くらいで,それ以降に熱心に言い続けている先生を見たことがない。3年間口を酸っぱく言い続けている先生はぜひ名乗り出てほしい。お疲れ様です。と一声かけてあげたい。

そしてこの指導をするときの唯一の欠点は,2分前着席が守れているかどうかをチェックするために,先生が少なくとも2分前にいることが前提だ。しかし多忙なおり,そんなことしている余裕なんてないだろう。授業と授業のあいだにトイレと水分補給してたら10分なんてあっという間だ。

 

こんな声を聞く。生徒に2分前着席を指導しているが,2分間の間,生徒は予習するかといえばするわけがない。最初はその演技をする。けどだんだん演技すらしなくなる。こっちも2分前着席を指示している手前,シーンとした空気も居心地が悪くなってくる。なんかこの2分のいい使い道はないですか?

いや,2分前着席という奇習をやめたらいいと思いますよ。先生の方が疲れてるじゃないですか。

 

そもそも学校内の時計で秒針があるタイプ,デジタルを選択していない学校は,どうやって2分を測っているんですか?

生徒が2分前を測れない秒針のないシンプルタイプの時計を採用している学校で,生徒はどうやって2分前を測るんですか?カチッて48分指すのを待てってか?それとも生徒全員に腕時計を配ってるんですか?ふつうに考えてください。無理でしょ?

本稿は秒針もあります!デジタルです!って学校は,お好きにどうぞ。てか体育館や外の時計もデジタルや秒針ついているならすごいです。

 

4.10分休みをちゃんと休ませよう。

うんこがしたい。けどみんなトイレにいるからできない。過敏性腸炎の私はそんな中学生でした。だから10分休みの後半が大事でした。人が少ないから。

50分の授業を6時間も受けたらなんだかんだ疲れるよね。本当に今の中学生はがんばっていると思う。移動教室なんてあれば休憩なんてまとも出来ないでしょ。

そんな生徒に2分前からシーンとした雰囲気作って授業したいですか?私は10分間ちゃんと休んで友達と笑い話して,ちゃんと気分転換した上で,「号令」をかけてほしいです。「おし,次もやるか!」を10分で作ってほしいと切に願います。

10分間のうちに,次の授業の準備をする。開始時刻には号令をかけられるように座っておく。この2点の指導で生徒に十分意図は伝わるし守ってくれる。

先生たちってどんな中学校生活を送ってきたんだろう。2分前に着席して待ってたやつが大半なんだろうか。2分前に予習してすべての授業に臨んでいたんだろうか。絶対そんなやついない。形だけ。頭はぼうっとしてたでしょ?。心はかわいいあの子でしょ?鬼ごっこぎりぎりまでやって怒られたでしょ?

 

5.社会人になってからでいいじゃん。

最後に社会人になってからとか,常識としてとかいうひといるけど,それは社会人になってからで十分間に合います。中学校3年間かけて習得するものではないです。研修の1日目で身につきます。それで充分です。学校はビジネスマナーを教えるところではなくて,授業や行事に全力を尽くすところです。開始時刻に間に合うように準備する。指導内容はこれで十分じゃないですか?

最後に集合時間の30分くらい前に来る社会人はやめてください。準備しているこっちの身にもなって下さい。迷惑です。集合時間を守ってください。

 

 

傷ついた野鳥動物のレスキュー隊

 

https://shimasoba.com/blog/642/よりオジロワシの幼鳥

オホーツク地方には,こんなにもカッコイイオジロワシが流氷とともにロシアからやってくる。オジロワシ絶滅危惧種に指定されている。この大自然の象徴のような鳥が,人間の活動によって傷ついている。

 

真っ二つに折れた羽。ワシの近くに見えるのは巨大な発電用の風車だ。回転する羽に富んでいるわしが叩き落されることがある。ここ10年間で分かっているだけでも70羽ほどが同様のケースで傷ついている。この数はもちろん氷山の一角である。

 

録画してあったNHKの番組「ワイルドライフ 北海道 オジロワシ舞う大地 密着! 絶滅危惧種レスキュー」を見た。

北海道釧路市にある環境省釧路湿原野生生物保護センター。ここでは10人に満たないメンバーで,全道の野生動物のレスキューを受け持っている。チームをまとめるのは,猛禽類顎研究所獣医師の斎藤慶輔さん。30年にもわたって,傷ついた鳥たちの治療を行ってきた。鳥が傷つく主な原因はわれわれ人間だ。

 

例えば,シカ猟に使われる鉛の弾丸は,巡り巡って鉛中毒のワシを生み出していた。鉛中毒になったワシは助けることができない。斎藤さんの原点はこの鉛中毒のワシだった。斎藤さんは世界にも珍しい猛禽類の鉛中毒の実態について報告した。日本では2000年以降,鉛の弾丸の使用が禁じられた。

 

また,ワシはよく列車にはねられる。原因はまたしてもシカ。道民にとってはおなじみの汽車とシカの事故は,一番の発見者であるワシがシカの死骸をを食べている間に,後続の列車にはねられるのだ。

 

斎藤さんはこうした状況に「環境治療」という考え方で向き合っていく。

環境治療とは,野生動物が事故にあわないように,危険な環境を特定し,変えていく活動のことだ。鳥よけの送電塔や高速道路に鳥よけポールを立てるなどの対策が進んでいる。

https://chubudenki.net/archives/2247中部電気工業株式会社HPより

高速道路の鳥よけ

https://thesis.ceri.go.jp/db/files/12857413055847ad5190b.pdf3a

 

 

中学校社会科では最適なエネルギーミックスを考えようみたいな課題で,火力や原子力再生可能エネルギーの配分について考える。北海道民にとって身近な風力発電は,多くの生徒が増やしていくべき発電方法として取り上げる。

 

このとき,授業ではなかなか本筋からそれるために取り上げることはないが,こんなテレビをきっかけに反論する生徒を楽しみにしている。

 

こうした地道な活動については,ホームページでチェック。

irbj.net

YouTubeチャンネルもあるみたい!

www.youtube.com

 

冤罪の深層と続報”冤罪”の深層をみて

走り出したら事件化につき進む警視庁公安部外事一課。

冤罪の背景に組織内評価を意識したというくだらないものだったことにあっけにとられる。

NHK



 

犬ぞりをはじめて気づくよそ者感の正体 角幡唯介「裸の大地シリ―ズ」

 

久しぶりの角幡唯介

久しぶりに角幡唯介の本を読んだ。

北極圏の探検記をあさっていたころ,ちょうど『極夜行』に出会った。

今回は「裸の大地」シリーズの1作目,1匹の相棒犬「ウヤミリック」と狩りをしながら徒歩で北極圏を旅する『第一部 狩りと漂泊』と,2作目,犬ぞりで狩りをしながら北極圏を旅した記録『第二部 犬橇事始』について,気になったところをあげていこうと思う。

 

作品はこちら

 

 

 

よそ者感の正体

角幡は第二部の最後で犬ぞりを始めたことによる村人の変化について書いている。

 

第一部まで,角幡は「人力ぞり」で旅をしていた。このとき,シオラパルク村の人々は,角幡の活動にさほど興味を持たず,角幡と一定の距離をたもち接しているようにみえたという。ところが,角幡が「犬ぞり」を始めた途端,そうした距離がなくなり,村人たちはお節介ともいえるほどの積極的な交流が始まったという。角幡が犬ぞりを始めることを歓迎してくれていたのだ。

 

この態度の変化は何なのだろうか。

 

そしてこの交流において,角幡は自分たちの流儀を押し付けようとする村人の態度を不思議に思った。角幡が自分たちの伝統から外れた行為をしようとすると機嫌を損ねたという。例えそれが,角幡なりの合理性のもとで生み出されたものであってもだ。

 

こうしたイヌイットの態度は,個人主義者かつ保守主義者であることから説明される。

 

イヌイット個人主義で,それぞれの信念と経験のもと生じた差異を美点とする。過酷な自然の中では,各人が状況に応じて最適解を見つけなければならず,無批判の同調は愚か者で恥ずべき行為である。

 

一方で彼らはそれ以上に伝統や権威を重んじる保守主義者でもある。各人の思考のみに頼るのではなく,歴史の中で生き残ってきた先人の知恵を何より大事にする。

 

角幡はこうしたイヌイットの生態を「個人主義的な知恵と民族的伝統の双方が彼らのなかでは無理なく同居しており,それが交差する地点にひとりひとりの生のよりどころがある」という素敵な表現で表している。社会学的用語でいえば,「エートス」であろうか。

 

このイヌイットの生のよりどころの中心にあるのが「犬ぞり」である。

 

だからこそ,角幡が犬ぞりを始めたことは,単に犬ぞりをするという行為以上に,彼らの文化と伝統に敬意を示すメッセージになっていたのだ。だからこそ,彼らは自分たちの流儀を踏襲することを求め,角幡の伝統からの逸脱に不機嫌になったのであった。

 

そして見方を変えれば,それまでの「人力ぞり」による旅のスタイルは,その言外にイヌイットエートス否定のメッセージが込められているということでもある。角幡は角幡なりの合理性に則って「人力ぞり」を選択しており,そうした文化の否定なんてつもりは毛頭ない。しかし,その角幡なりの合理性とは,やはりイヌイットの合理性ではなく,どこまでいっても角幡なりの合理性にとどまっていたということだろう。その証拠に,「人力ぞり」から「犬ぞり」に変えた途端,村人の態度は変わったのだから。

 

私はこうした角幡の体験に思うところがあった。これってよくある田舎への移住者が感じるよそ者が鼻につく感じっていうのと似ているんじゃないかということ。

 

地域で生きる教員の不足

北海道において教員として働くということは,転勤することとイコールである。運よく地元周辺に赴任できればよいが,広い広い北海道でそんなことはめったにない。そうなれば,おのずと4~6年のサイクルで,知らない土地で生活することになる。

 

私はかつて岩手県の中学校で働いていたことがある。そこに赴任したときの校長の言葉が忘れられない。

「この中学校で働く教員は,この地域に住んでいないひとがほとんどだ。その多くが車で30分ほどの大きな町に住み,通っている。教員住宅に住み,地域で生活する教員として,地域とともにある学校教育に貢献してほしい。」

 

そのとき,これまで気にも留めてこなかった「過疎化の進む小さな村」を肌で感じた気がしたのだ。確かにこの町にもスーパーはある。けど,車で30分のその町には,大きなスーパーやドラッグストア,外食チェーン店がたくさんある。引っ越ししたとき,車で30分の距離に大きな町があってよかったと心から思った。実際,初期の食材集めや家財集めに何往復もした。あっちに住んでいる同僚が羨ましくもあった。そしてこの小さな集落に住む子どもたちを不憫に思ったこともある。

 

けれど先生としてこの集落に迎えられ,挨拶回りなんかをして,日々生活をしていくと,徐々に大きな町に行くことより,地元の小さなスーパーで買い物し,何もない海でたそがれ,その地域を探検し,たまにだが村人と酒を飲んだりする毎日に変わっていった。そして集落の一部になろうとする自分がいたことを覚えている。ある日,地元の商店に○○があって,それ買って食べたらめちゃくちゃおいしかったって話を生徒にしたとき,なんかこれまでの反応と違うなと感じることがあった。それは「先生も同じだね!」っていう共通点が一つ増えた感じだった。

 

たしかにこのご時世,車をかっ飛ばせば大きな町に行くことができる。そして別に地元のスーパーで食材を買ったからと言ってなんかなるわけではないと思う。けれど,その地域に思い入れがない教員が,総合や社会の時間に地域をよくする方法を考えようなんて言ったところでどこか空虚な問いであることを感じ取られるんじゃないだろうかと思う。子どもの裏には,この地域で働き,生活する保護者がいて,地域の人がいる。そして何より,子どもたち自身がこの町で暮らしている。

 

自身の言動が,生徒たちの現在の生活を否定しないかどうか,言外のメッセージも含め今一度考えていかないといけないと感じた。

 

追記2023/12/31

地球ドラマチック犬ぞりが放送されていた。

たった8日間と言えどその大変さが伝わってきた。

www.nhk.jp

 

ガストロノミーツーリズムってなんだ!?

UNWTO


1.ガストロノミーツーリズム

ガストロノミーツーリズムって言葉を知っていますか?私は初めて聞いた言葉です。

国連世界観光機関UNWTO)はガストロノミーツーリズムを次のように定義しています。

 

観光客の体験・活動が,食や食材に関連づいていることを特徴とする。本格的,伝統的又は革新的な料理体験と併せて,ガストロノミーツーリズムには,地域の産地訪問,食に関するフェスティバルへの参加,料理教室への参加など,他の関連活動を含む場合もある。(UNWTO「ガストロノミーツーリズム発展のためのガイドライン」)

 

こうした定義を見ると,「ああ,あういうやつね」というイメージがわいてきますが,そうした観光のあり方を「ガストロノミーツーリズム」というんですね。フードツーリズムなんて言葉もありましたが,フードツーリズムの発展形として捉えておけばいいのでしょうか。地元のスーパーで見かける食材は,このガストロノミーツーリズムの入り口になるんでしょうね。

 

以前三陸沿岸で働いていたころ,新巻鮭づくりと鮭の稚魚水槽観察を地元の漁協さんの協力を経て行事として実施していました。こうした学校における教育活動を観光に転用すると,意外と簡単にガストロノミーツーリズムになるんじゃないでしょうか。

 

そもそもガストロノミーとは,

ガストロノミーとは,私たちが何をどのように食べるかという合理的な知識のことです。これは学際的な知識の領域で,人間が良い食べ物や飲み物を栽培,加工,流通,そして消費する中で,物理化学的,文化的,社会経済的プロセスを研究創出し,人間の物理的,精神的,社会的に健康な生活に影響を与えています。(同上)

というものらしい。

 

ガストロノミーツーリズムは,そのままガストロノミーエデュケーションとして,それこそ教科横断的な活動につながる概念であり,自身の教育活動を再定義してくれる言葉のようだ。

 

ざっとAmazonで検索すると,こんな書籍たちがヒットしました。

 

 

 

 

参考文献

UNWTO(国連世界観光機関)ガストロノミーツーリズム発展のためのガイドライン